シャトー・ラグランジュ

サントリー資本のワイナリーとして日本でも有名なサンジュリアンのドメーヌですね。遠目にその美しい建物と庭を拝見したことは幾度もあれ、実際に見学させていただいたのは今回が初めてでした。

昔から気になっていたのですが、ブルゴーニュでは畑にAOCがついていますから、そう簡単に造り手が畑を増やすということが出来ませんが、ボルドーの場合いわゆる格付けはシャトーについています。なので、今まで生産量を増やすために畑を広げているなんて話を聞く度に、それによってワインの品質に変化や影響がないのか、と疑問だったわけです。しかも格付けシャトーのお値段は今や大層高価ですから、そんなに簡単に品質に変化があってはやはりおかしいですよね。

そんなお話をたまたま今回伺えたのですが、椎名副会長のお話によればラグランジュでも現在畑を拡張すべくINAOに申請中だそうで、これがまた大変だそう。徹底した地質調査が行われ、地勢や天候の影響など様々な角度からチェックされるそうで、実際に認可がおりるまで数年を要するそうです。そうですよね、そんなに気軽にほいほい畑を広げることができたら、品質が保証されませんものね。さすがフランス、厳しい管理がなされているわけです。

 

ラグランジュに限らず、今やボルドーのトップシャトーはどこでもそうでしょうか、自社の畑に関しては徹底したコンピューター管理がなされています。ラグランジェはサンジュリアンのなかでも川から離れた、標高の高い場所に畑があるのが特徴だそう。確かにサンジュリアンのなかでは抜けの良い涼やかなスタイルだなあ、と昔から思っていましたが確かに納得です。昔は川の近くほどよい畑という考え方があったそうで、隣のポイヤックでも川に近いシャトー・ラ・トゥールは格付け1級ですし、サンジュリアンにおいてもやはり川近くに位置するレオヴィル・ラス・カーズが格付け2級です。川に近いということは、それだけぶどうが熟しやすい場所でもあり、昔は特にそのことが重要な条件だったわけです。しかし現在のように温暖化の影響で気温も上がってくると、必ずしもそうとは単純に言えなくなります。標高の違いは地質年代の違いでも有り、ひいては土壌の違いでもあります。また当然標高が高いほうが風も通り、それは病害を防いでくれたり、暑い年にはぶどうの過熟を防いでもくれます。

自身のシャトーのもつ畑の強みや特性を活かしながら、ラグランジェでもそれぞれのぶどう品種を、保有する畑の中における適地で栽培しているそうです。「様々な角度から畑を細分化し徹底管理して細かいチューニングを行い、いかに毎年さらに良いワインを造るかということをやっていかなければ、周囲のワイナリーと競っていくことは出来ないし、すぐに遅れをとってしまうのです。」という椎名副会長の言葉に、ボルドーにおけるワイン造りの熾烈さ、そして格付けにふさわしい味わいを保持する大変さを感じました。ボルドーの格付けワインというのは、職人技と最新の技術の融合であり、そしていかに細心の注意と向上心を持ってワインを造り上げていくか、それゆえに世界中に注目されるに値するワインであり続けることが出来るのでしょう。

 

そういえば最近ボルドーでもシャトーでワインを一部直売するようになりました。昔はボルドーにおいてはシャトーで購入は出来ない、というのがお決まりでした。シャトーからワインを買い取るクルティエやネゴシアンといったワイン商がいて、彼らがワインの市場価格を決めてインポーターやワインショップなどにワインを販売する、という流通経路がきっちりと決まっていたからです。しかし現在ではシャトーとクルティエやネゴシアンとの間で話し合いがなされ、古いヴィンテージであれば、そしてある程度の本数であれば(ようはあまり多くでなければ)シャトーに来た人に販売してもよい、ということになったそうです。歴史ある産地も少しずつ変化していくのですね。しかしやはり訪問した人にとってはその場で購入出来るのは嬉しいもの。それにもちろんぴっかぴかのシャトー蔵出しですから、状態はお墨付きですしね。また決して安くはありませんが(とはいえ、市場に出ている価格よりは良心的です)バックヴィンテージであればなおのこと保管状態が重要ですから、シャトー購入出来るのは有り難いことだと思います。