むつ市の武田屋さん

サンマモルワイナリーを訪問するために宿泊したむつ市内で、せっかく青森に来たのだから美味しい魚介類と日本酒でも、と思い訪れたのが武田屋さん。

2階のお店に上がる階段の壁一面に日本酒のラベルが。うーん、かなりマニアックな感じなのかしら、とちょっと緊張しながらお店の扉をあけましたが、結論、素晴らしいお店でした。ご夫婦でされているのですが、奥様がお料理を、ご主人が飲み物(もちろんメインは日本酒)を担当されています。

 

聞かれるままに東京から来たことを告げると、「じゃあ、まず帆立づくしで出していこうか?」はい!もちろんそれでお願いします!私、実帆立は昔から大好きなのです。貝の中で一番好き歴が長い。昔はあまり貝の内臓の部分?が好きでなかったのです。アサリ、蛤、牡蠣・・・あの、むにゅっとしてちょっと苦いところ。

だけどよくある話のように大人になるにつれ、言い換えれば酒飲みになるにつれ、今では全く問題なく、というより好んで食べるようになりました。

そんなわけで前置きが長くなりましたが、帆立は私にとってそんな成長過程とは無関係に昔から大好きな唯一の貝なのです。まあ、どうでもいいか、そんなこと。ともあれ、おおぶりな帆立の刺し身がとんと置かれ、わーいっ!こんな立派な帆立はそうそう頂けません。

日本酒は、とにかく出てくるお料理に合わせてお願いします、とご主人に。

この帆立の刺し身には玉田酒造の「華一風 特純 槽直どり」

以前弘前でこちらの蔵元さんを訪れたことがあります。若旦那が頑張っている蔵元です。華やかな香りと軽やかな甘さは好相性でした。確かにワインでも南イタリアなどでは貝類にやや果実の甘さのあるフルーティーな白ワインを合わせると言われます。なるほど、もしかすると日本酒でも味わいの合わせ方に似た視点があるのかもしれません。

 

この後、味噌貝焼きをいただきました。そうそう、よく耳にするのは貝焼き味噌、ではないですか?しかし同じ青森でも下北半島この辺りでは味噌貝焼き、と逆になるのだそう。昔は味噌が主役であり、具はおまけだったから、というような。慎ましい料理なのですね。貝焼き味噌という言い方は、どちらかと言えば津軽地方のものだそう。

 

そして未だに忘れられないのは、この時期出始めのホヤ。

まだ小さいのだけど、と言いながら女将さんが出してくださったこのホヤが絶品でした。私実は今までホヤを美味しいと思って食べたことが無かったのですが、これは美味しい!爽やかな磯の香り、とろりとした食感、そして僅かなほろ苦さ。そして選んで頂いた萩の酒造の萩の鶴 純米吟醸。

ホヤを味わい、後から日本酒を口に含んだ瞬間、とても緻密な味覚の絡み合いに思わず、「う〜ん。。。」と唸ってしまいました。それでもご主人は「ベストじゃないけど、今ある中ではこれが一番いいと思います。」と言って出してくださったのですから、本当に細かいチューニングで日本酒と料理の組み合わせを考えていらっしゃることがよく解ります。

そう、ホヤの苦味、というものも実はこの時までちゃんと意識したことがなかったのです。しかしご主人に日本酒との相性ポイントを伺った時、「ホヤって、独特な苦味が後味にあるでしょう。そこに合うお酒って、じつは日本酒でもなかなか難しいのです。もしかしたらワインのがいいのかもしれない。」と。それで改めて食べてみると、なるほど。。。

いや、ワインでも、この繊細な味わいを活かすのはとても難しいように思えます。

 

シメは女将さんと常連さんお薦めのこの地域定番の酒の肴、塩辛の貝焼きを。味噌貝焼きのように貝の上でイカの塩辛を焼いたもので、造り方はお店によって様々なようですが、武田屋さんでは大根おろしを添えて焼きます。

これがまた塩辛くなり過ぎず調度良い味わいに。まずは全体をざっと混ぜ、貝の端っこに少量のせて、先に香ばしく焼き上げたところをつまんだりしながら、日本酒をゆるゆると楽しむのは、もうなんとも言いがたい酒飲みの醍醐味かと。こちらにお薦めの日本酒は喜久盛酒造の純米原酒タクシードライバー。ラベル、派手でしょう?なんとも言いがたい酒飲みの醍醐味かと。こちらにお薦めの日本酒は喜久盛酒造の純米原酒タクシードライバー。ラベル、派手でしょう?

でも味わいは、けっして色物でも変にイケイケでもありません。

どっしりとした力強さと豊かな広がりを感じますが、しかし同時に優しさがあります。そして後味にくどさはなく、甘ったるさも残りません。塩辛という強い味わいに見事に包み込んで、後味を心地よいものに変えていきます。

なんというか、ワインで言うのであれば、自然派のワインを飲んでいるような気がするのは何故なのでしょう。

それにしてもあっという間に日本酒が空いてしまう、塩辛貝焼き。

なんて危険な酒の肴。。。

 

そして塩辛もあと少しのところで、女将さんの「ご飯、ちょっとだけ食べる?」と、最高に魅力的な提案にうなずくと、青森県産の美味しいお米で炊いたつやつやの白米が登場したのでした。

こんなの、ちょっとだけで済むわけないじゃん。。。。

食材の仕入れは主に女将さんがされているようで、食べることで体ができるのだから食はとても大切なこと、と食材も非常に吟味されていることがお話からもよく判りました。こういった方が仕入れ、調理をしているのですから、美味しくないわけがありませんよね。

 

未だにこちらでいただいたお料理と日本酒の味わいを時折反芻するたび、

絶対に再訪することを心に誓うのでした。

ああ、これ書きながらほんとに行きたくなってた。。。